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私論「リソース・フォーカスト・アプローチ」

私論「リソース・フォーカスト・アプローチ」

文責:志村勝之 [カウンセリング談話室]

1.セラピーはネガティブ・クリニカル・アプローチから始まった。
 セラピーとしての心理療法はフロイトの精神分析に端を発している。そして彼が医者であったことから、臨床実践の相手はあくまでも「患者」であり、彼の「まなざし」は「患者」の「症状」をどう「診断」し、どう「治療」するかという、量的・因果論的・直線的な「医療モデル」に支えられていた。
ここで言う「症状」とは「病を示す諸兆候の首尾一貫した集まり方」を指すもので、「医学モデル」は定義が困難な「健康状態」を避けて、「病を示す諸兆候」と見なされる「不健康状態」の方を分類することで、「症状」を定義していかざるを得なかった。ゆえに、こうしたセラピストの「まなざし」がネガティブ・クリニカル・アプローチとして切り離しがたく根付くことになった。
「症状」を「個人の無意識の葛藤であり、抑圧の結果である」と見立てたフロイトは、独創的な形で患者の、とくに幼児期の精神内界の分析を重視し、抑圧されたものを「徹底操作する」ことを「治療」の眼目にした。その後行動主義や実存主義的―人間学的アプローチ等の登場を見て、1960年代以降になって新たなパラダイムが出現した。それが一般システム理論やサイバネテイックス理論を摂り入れた、家族療法に見られる質的・非因果論的・円環的な「システム・アプローチ」である。
ここから個人の精神内界を重視する精神分析は一気に後退し、ネガティブ・クリニカルな「まなざし」は転換期を迎えた。

2.幸福感(ハッピネス)を重視するカウンセリング・アプローチへ。
 心理学専攻の勝俣暎史教授は「今までの臨床心理学はネガティブ・クリニカル・サイコロジーでしたが、今、ポジティブ・サイコセラピーというものを考え出そうとしています」(2008 臨床心理の歩みと展望 日本臨床心理士資格認定協会・編)として、個人のなかに潜む「幸せ」や「幸福感(happiness)」あるいは「安らぎ感(wellbeing)」をきわめて重視する立場をとっている。
ここでは「症状」を呈するクライエントに対する、心理臨床家としての「まなざし(視座)」の大転換が見られる。「幸福感」の定義はもとより困難であるが、「その人がその人らしく生きられる感じ」といったぐらいに考えたとき、そこには「その人」が有する独自の「リソース」が大きく関与してくると考えられる。
 「リソース」とは「(その人が)目標を達成するために利用できるあらゆる媒体。生理、状態、思考、戦略、体験、人、出来事、富」(L・マイケル・ホール・著 2006 橋本敦生・監訳 浅田仁子・訳 NLPハンドブック 春秋社)のこと。ここで、不安感の大きさ=Ri(リスク)/Re(リソース)とする単純な公式を踏まえたとき、従来の心理療法は「分子」であるRi(リスク)の方を重視する一方で、「分母」となるRe(リソース)の方を拡げていくことを軽視してきたのではないか。たとえば、Ri(リスク)はそのままにしておき、Re(リソース)を拡げていくだけでも「不安感(広義としての不幸感)」は小さくなっていくからである。ここに筆者は、リソース・フォーカスト・アプローチの意義を見出している。

3.リソース・フォーカスト・アプローチ(Resource-Focused Approach=RFA)とは?
 「リソース・フォーカスト」というのは、アメリカの家族療法家であるブラッドフォード・キーニーの命名によるものだが、現今で体系化されたアプローチ方法は見られない。従って筆者が言うRFAは、あくまでも筆者が独自に編み出したカウンセリング・アプローチであって、30年間近く行ってきた自らのやり方を総称するとしたら、結果的にその呼称が相応しくなったというものである。
 その要領は①クライエントの生育史の「語り」からさまざまな「リソース」を紡ぎ出し、②「キーワード化」し、③「編集」する形で「焦点化」し、④そこからアナロジー的発想をもってクライエントの「目標」を定め、⑤その「目標達成」に役立つ具体的アイデアを「共に」創造しようとするアプローチである。クライエントが抱える「不幸感」を「リソースフルな文脈や物語」へ、換言すれば「その人らしく生きられる場面」へと置き換え(リプレーシング)、「幸福感」が息づく「場面」へと誘っていくアプローチでもある。これが筆者の行うRFAであって、筆者なりに半構造化面接法として整えているものである。
 ただし、このプロセスにおいては「肯定的意味づけ」や「奨励」、「再枠組みづけ(リフレーミング)」や「逆説(パラドックス)」あるいは「再定義づけ」といった心理操作による介入も臨機応変・当意即妙に織りまぜていくことが必要になる。ここがカウンセラーのスキルとして問われてくるところであろう。
 かくして筆者が行うRFAはその手法を異にしても、キーニーの言葉通りの「あなたの問題の解決策はあなたの中から生まれるのです。われわれがしなければならないことは、適切な解決策を作り出す能力に自信を取り戻すために、あなたの創造的な心を獲得することなのです」(ブラッドフォード・キーニー・著 1992 亀口憲治・訳 即興心理療法 垣内出版)へと向かっている。
 またナラティブ・セラピーのマイケル・ホワイトの「もしも諸個人がセラピーにもち込むような生き方や考え方が、いかなる理由であれ、彼らの役に立たないのなら、他の生き方や考え方をあきらかにすることに貢献する文脈を提供していきたいのです」(マイケル・ホワイト・著 2000 小森康永/土岐 篤史・訳 人生の再著述 ヘルスワーク協会)という言葉に共通する思いも筆者は抱き続けている。
(了)

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